コーヒーが美味しくなるメカニズム ◎コーヒー風味成分の探求 by KAO
セラミックフィルターでコーヒーが美味しくなるメカニズム(吸着ろ過)
【脚注】
ポリフェノールとは、植物が自身を活性酸素から守るために作り出す抗酸化成分として知られる物質です。コーヒー中に含まれる代表的なポリフェノールとしては、クロロゲン酸類が広く知られています。クロロゲン酸類は、一般に桂皮酸誘導体とキナ酸のエステル化合物と定義されます。コーヒー中には主にカフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)からなる9種類の化合物が含まれており、これらの総称がクロロゲン酸類です
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1.コーヒー豆の焙煎による成分変化
コーヒーは、豆の焙煎という加熱工程が必須となります。この工程で様々な化学変化がおき、コーヒー独特の味と香りが生み出されます。焙煎工程中の成分変化に関して、クロロゲン酸類は焙煎によって減少することが知られています*1 。一方、焙煎によって新たに生じる成分は香気成分を含め数千種類になることも知られています*1 。
われわれは、アラビカ豆を5Lot用いて、L34-16の間でL値(分光色差計により計測)を変化させ焙煎し、焙煎によるクロロゲン酸類とヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の変化を検証しました。その結果、焙煎が深くなるほどクロロゲン酸類の量は減少し、HHQは焙煎により生成することがわかりました(図-1)。なお、HHQはコーヒー中の雑味成分としても報告されている成分です*2 。
2.コーヒー中の成分の選択的低減技術
コーヒー中のクロロゲン酸類の量を維持したまま、酸化成分であるHHQや雑味成分を選択的に低減する方法を検討しました。コーヒー成分の分子サイズ、構造、性質を研究した結果、コーヒー成分の分子サイズの違いに着目した吸着ろ過による方法で選択的に低減できることがわかりました(図-2)。この方法によって、コーヒー豆の使用量が通常より多い2.5倍* 使用したコーヒー抽出液での適用を検証した結果、酸化成分であるHHQを1/50に低減できることがわかりました。
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*コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約の定めるコーヒー規格下限値(5g/100g)に対して
(2)酸化成分、雑味成分を低減したクロロゲン酸類含有コーヒーの風味評価
1.飲料による風味の連続感覚強度(Time Intensity)測定
感覚の時間的変化を捉える手法のひとつとして連続感覚強度測定法があります。この方法を飲料評価に用いた報告例は多くありません。その理由として、飲料摂取時のような比較的短い時間に感覚変化が起こる評価においては、従来の方法では自身の感覚を的確に表現できないためと考えられています。
これらに対して、飲料摂取において風味の連続感覚強度をより精度よく測定する新規装置が提案されています*3 。
2.新規連続感覚強度評価による風味評価試験
①方法
対象者(コーヒー飲用者20歳~49歳 男女25名)に対して、焙煎コーヒー飲料(対照飲料)と、この飲料に吸着ろ過処理して酸化成分、雑味成分を低減したクロロゲン酸類含有コーヒー(試験飲料)を評価飲料としました。それぞれの飲料について、対象者に5ml摂取させました。評価は口に含んでからの“口腔内で感じる苦味”、嚥下後の“舌上で感じる苦味”および“喉の奥で感じる香り(retronasal aroma)”とし、感覚強度を上記連続感覚強度装置により5分間測定しました。感覚強度は、6段階のVisual Analog Scaleで評価しました。
②結果
“舌上で感じる苦味”および“retronasal aroma”の、各々が一番強く知覚した感覚強度で正規化した連続感覚強度測定結果(嚥下後140秒間)を示します(図-3)。“苦味”の感覚強度は、時間経過に伴って指数関数的に減少し、間隔継続時間は対照飲料に比べ試験飲料は有意に短くなりました(図-3(1))。また、対照飲料は、“苦味”と“retronasal aroma”の感覚強度の時間変化が同等であるのに対し、試験飲料は“苦味”に比べ“retronasal aroma”の感覚強度が有意に高くなりました*4 (図-3(2))。
③考察
“苦味”の持続時間の低減により、“retronasal aroma”を優位に知覚できることが確認できました。これは吸着ろ過により低減した雑味が“retronasal aroma”の知覚を阻害すると推察しています。